「誤食をなくす」は無理です

  • 2017.04.19 Wednesday
  • 21:31

1)まず、kasu先生、コメントありがとうございました(「お迎え時間帯の安全について」2016年10月18日)。「コミュニケーションに関するトピックスのB-1に置いてある「送迎時に園庭で遊ばせない。安全は保護者の責任」をぜひラミネートして、玄関なり遊具なりに朝晩(特に夕方)、ぶらさげておいてください。それによって、薄暗闇の中、おとなが見ていない状態で遊ぶ子どもがいなくなるとは思えませんが、少なくとも言わないよりはよいですし、保護者の中にも「あんなに遊んでて、親も見てなくて危ないなあ」と思っている人は必ずいるはずですから。

 

2)アナフィラキシーを理由に東京都認証保育所が子どもの入園を土壇場になって断ったというニュースがありました。「安全に関するトピックス」の「7.食」に書こうと思ったのですが、今、体調絶不調で頭がまわらないので、まずはこちらに。

 

 アナフィラキシーを現時点で発症していなくても、ある日、発症することはあります。「アナフィラキシーを起こすから危険」というのは誤りです。すでにエピペンを処方されているなら、発症時にあわてず騒がずエピペンを打つだけですので、かえって安心と言えば安心です。逆に、「アナフィラキシーを起こしたことがないアレルギーもちのお子さん」がアナフィラキシーを起こしたら、あわてるでしょう。救急車を即刻呼ぶしかありません。

 

 食物アレルギーであれなんであれ、認可園は入園を断れない(都認証は事実上断れる)のでしょうけれども、「断れないから預かって大変!になっている」例は枚挙にいとまがありません。いつでもどこでも何度でも私は言いますが、「今の配置基準は、保育の質どころか、子どもの安全も確保できないレベルの低さ」です。調理師さんの配置も同じです。無理です。

 

 そもそも、アレルギー食材の誤食自体はそう簡単になくなりません。なぜか。

あ)「食べる」は、子どもが一日に何回もするものだから。

い)誤食はヒューマン・エラー(おとなのミス)だから(子どもが自分で手をのばしたり、他の子がくれたりする以外は)。

 

あ)は、つまり、努力をして発生確率(何回に一度起こるか)を下げることができても、発生頻度(何回起こるか)は、なかなかゼロに近づかないということです。誤食が発生する原因となる「食べる」回数が多いからです。

 

い)は、献立作成から発注、納品、調理、配膳…、いろいろな人の間を渡る間に起こるミスで、どの段階でも起こり得、そのミスが見過ごされ、ミスのまま次に渡され…という部分です。ヒューマン・エラーをゼロにしようとしても無理です。人間はミスをする生き物なので。「誤食をゼロにしなさい」と言われたら、正直な話、保育園はもう運営できません。もちろん、誤食をゼロに近づける努力は必要です。でも、絶対に誤食はゼロになりません。「誤食をゼロにしよう!」なんていう目標を立ててはいけません。そんな目標を立ててしばらくは起きないかもしれませんが、起きないからこそ人間は油断します。「これで大丈夫だね」と思い始めます。よほど危険です。「これだけ取り組んでいても、きっと起こるよ」と想定して、対応の練習(エピペン、搬送等)をしているから対応できるのです。

 

 ではどうするか。食物アレルギーをもっているお子さんを預かる時は、「(以上の理由から)誤食を絶対にゼロにできるという保証は、正直なところできません。ですが、ゼロに近づけるために〜の取り組みをしています(指さし声出しチェックなど具体的な取り組み)。そして、誤食した時にはお子さんの様子を観察し、必要な発症対応をすぐにとります。親御さんにもすぐに連絡します」「ですから、お子さんの診察結果、体調、家庭の食事で起きたことなどもその都度、細かく教えてください」と伝えることです。つまり、「誤食は起きない」という幻想を保護者に与えないこと、保育園が誤食のリスクをわかっていること。そして、保護者と園が連携して対応していくこと、冷静な発症対応をすることを伝えるリスク・コミュニケーションの大切さです。

 

 「誤食は絶対にさせません」、これだけは絶対に言ってはいけません。事故に「絶対起きない」はありませんので。特に、ヒューマン・エラー系のものは。

 

 そして、ことあるごとに自治体や国、保育団体に「今の配置では子どもの命すら守れない」「調理師も増やして」と伝えてください。「できる!」と言い張りたい、「できない」と言いたくないのが人間ですが、それでは結局、「できなかったのは、この保育園、この職員の責任」にされて、トカゲのしっぽ切りが続くだけです。

食の安全(12月9日加筆)

  • 2016.12.04 Sunday
  • 19:23

マミオ先生のご質問「母語が日本語でない保護者に伝える」は、このスレッドの下にあります。

 

(次は、「栽培のミニトマト、トマト、について」です。)

 

(2016年12月9日)

 12月4日に書いた3)に関連する話です。今日、「乳児期からごく少量の卵を食べ続けることで、その後の卵アレルギーの発症率が下がった」というニュースが出ました(「卵アレルギー ランセット」で検索すると出てきます)。これで「卵を少しずつ食べさせて!」という保護者が増える可能性があります。その時のために…。

・「すでに卵アレルギーを発症している場合はまねをしないでほしい。卵を十分加熱していない場合もアレルギーを起こしやすいため危険があり、必ず専門医に相談してほしい」と、研究グループの大矢幸弘・国立成育医療研究センターアレルギー科医長は言っています(毎日新聞記事)。

・この研究で、乳児が摂取した卵の量はゆで卵に換算して1日1グラム以下であり、保育園でできることではありません。この実験の前に行われた英国の研究は摂取量が今回よりも少し多く、摂取開始直後からアレルギーを発症した子どももいるそうです(毎日新聞記事)。ということは、この研究のようなきわめて管理された環境で、ごく少量の卵でしかできないということです。

・結果は、卵アレルギーの発症率が卵摂取グループで「下がった」だけであり、卵を早く摂取した子どもたちすべてが卵アレルギーを「発症しなかった」わけではありません。

 下の3)に書いた通り、研究結果はこのように少しずつ出始めていますが、結論ではありません。「こうすればこうなる(結論の断定)」ではなく、「こうするとこうなる確率が上がる(下がる)ことが示唆された」だけです。

 

 

(2016年12月4日)

〔質問:どうしたら保護者の協力/理解を得られる?〕

・保護者の人が家庭で食べさせたもののチェック表を記入してくれない(食材はまず家庭で食べさせてから、なので、チェックをしてほしい)。

・アレルギーとわかっている(診断書が出ている)のに、保護者が作ってくる弁当にアレルギー食材が使われている。伝えても変わらない。

・離乳食の種類を広げたいが、「アレルギーが心配なので」「まだ食べさせたくない」と保護者が非常に限られた食材しか使わない。

〔回答〕

 そのお子さんの健康に責任を持っているのは、基本的に保護者です。いただいた質問のような内容まで指すわけではありませんが、「医療ネグレクト」(日本小児科学会)というものもあることを、まず頭の中に入れておいてください。

 「ご家庭で食べたものを教えてくださいね」「アレルギーを起こすものが入っていましたよ」「〇〇のようなものももう食べられると思います」と何度も声をかけることは大切です。でも、保護者が気にしない、聞かない、あるいは「うるさい」「ほっといて」といった態度を取り始めたら…? 

1)そのような事態(聞かない、気にしない)が起きていることを、保育・子育て関係部署に伝えましょう。事態が深刻になってからだと、「なぜ今まで報告しなかった」と言われる可能性があるからです。

2)食材の種類の多寡によって発育に問題があるかどうかは、主観的に考えるべきではありません。成長曲線を記入していき、いずれかの曲線からはずれ始めたら、関係部署、園医等に伝えるなどする。とにかくその子の健康データを蓄積しましょう(掛札は元・健診団体勤務で、成長曲線の勉強も「門前の小僧」でけっこうしましたから…)。

3)保護者が「食べさせないで」と言っているなら、それでよいと考えるべき。

・「園の判断で食べさせました」でもかまわないのかもしれませんが、それをしたら保護者はどう感じるでしょうか。もしそれで何か健康問題が起きたら? 

・アレルギー発症予防のために、食材を早く食べさせ始めたほうがいいのか、それとも一定期間待ったほうがいいのかは、論文が少し出始めた状態です。まだまだ結論は出ていません。ネット上にはいろいろ書いてありますが、医学上はまったく答えが出ていません。

・欧米ではvegan(ベジタリアンよりも厳しく、卵や動物乳も一切とらない)の保護者が乳児をvegan食で育て、深刻な栄養失調にしたために逮捕、または子どもが保護されている事例が複数報告されています。このような事例が保育園で起こるとはあまり思えませんが、もしこのような極端な食を求められた場合には、保育・子育て関係部署とすぐに相談するべきだと思います。もちろん、「宗教(文化)食」はこれとは異なります。

4)保護者の姿勢とは無関係に、家で食べさせていないと思われる食材をやむなく園で食べさせる時、あるいは、保護者が作ってきた弁当にアレルギー食材が入っている時は、その旨、記録をしておく(弁当は写真撮影)。保護者に電話で確認をとったのであれば、その旨と内容も記録。そして、子どもになんらかの症状が出たら、すぐ保護者に連絡する(湿疹や発赤は写真を撮っておく。迎えに来た時には薄く消えている場合が多いので)。つまり、保育園としては最善の努力をしているという事実の記録です。

 

 

(2016年11月29日)

 今回の話題に直結する、ちょうどいい事例をNPO理事の所さんが出してくださいました(偶然ですが)。NPOサイトの「製品安全」の所を見てください。これから、行事の時などにも登場するラムネの小麦混入です。それも、製造工程の混入なので、袋を見てもわかりません。小麦アレルギーのお子さんがいる園の皆さん。ラムネを買ったら、またはお菓子の中にラムネの小袋が入っていたらチェック!

 

「製造元」「販売元」を見る→ここに掲載されている3つの製造元/販売元だったら商品を確認する→不安だったら製造元/販売元に電話をする。

 

食物アレルギーであれなんであれ、心配だったら製造元/販売元に電話をする、これは大事です。NPOサイトの「リンク」のページにも置いてありますが、消費者庁のこの文書の最後のページを見てください。「わからなかったら、とにかく販売元、製造元に聞く」「販売元、製造元の回答の態度に問題があったら、消費者庁に連絡する」です。  (まだまだ続きます)

 

 

(2016年11月26日)

関西で「食」に関するお話をさせていただきました。食物アレルギーだけでなく、異物混入、食中毒、感染症まで…。残念ながらまったく時間が足りず、事前にいただいていた質問にも答えきれませんでした。ですから、こちらで続けていきます。当日ご参加くださった調理師、栄養士、保育士の皆さんだけでなく、誰でもどうぞ!です。この本文自体、増えていきます。今書いている26日分を一番下にして、どんどん上に書き足していきます。

 

1)まず、丸のままのミニトマトと白玉(白玉風の団子)の誤嚥について書いている内閣府のガイドラインはこちら。

「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン 予防 施設向け」

 この文書の3ページめ、真ん中あたりに「過去に、誤嚥、窒息などの事故が起きた食材(例:白玉風のだんご、 丸のままのミニトマト等)は、誤嚥を引き起こす可能性について保護者 に説明し、使用しないことが望ましい。」と書かれています。これだけが誤嚥、窒息を起こす食べ物ではありませんし、他にも報告されていないだけで重症の誤嚥窒息を起こしている食べ物はあります。ですから、これだけをわざわざ取り上げることにはなんの意味もありません(他の食べものは安心と思われてしまう)。

 しかしながら、とにかくこのように書かれてしまった以上、次に深刻事故が起きたら社会的責任を問われる可能性が高くなります。栽培のトマト、ミニトマトも同様です(トマトも育つ途中は「ミニ」であり、子どもは緑のものも口に入れて詰まらせています)。

 

2)餅つきについては、昨年末のスレッドがここにあります

昨年末に起きた餅つきが原因とされるノロ集団感染事例は、「ニュース」にあります。こちらの1つめと3つめです。

 

3)各園のマニュアルを改善するためのマニュアルは年末になんとかNPOサイトに掲載したいと思っていますが、まずはとりあえずこちらの27ページをご覧ください。

「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン 予防 施設向け」

「声をかけあう」「連携する」「気をつける」「チェックする」「共通認識を持つ」「確認する」「所定の場所に置く」「いつもの場所に置く」といった各園のマニュアルの中の言葉について、「これは、職員によって行動が違ってしまわないかな?」と考えてみる。そして「違ってしまう」「違っている」と思ったら、「誰がしても同じ明確な行動の表現に書き換える」、これが基本です。

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